たぶんあなたの子です? 認知して下さい!
✴︎
だだっ広い畳の部屋で、女性は焦りながら下を向いておむつをかえている。
柔らかそうなウェーブの髪が肩にかかり、困り果てた眉毛も、目も、垂れ下がっていて、とても詐欺を働くようにも見えなかった。
しかも、男に妊娠中に捨てられたような、そういった悲壮な影も全くない。
それでも本当に兄の子だと言いはるのか。
「名前は? 」
「賢次です」
「⋯⋯ 君の名前だ」
「はい? わたし? 」
「そう、子供の名はもうわかっている。賢斗の子供の賢次だろう。君の名前だ」
「あ、ゆりです? 宮前ゆ⋯⋯ りです」
自分の名前だろうに、言いにくそうに名乗った。本名じゃないなと秀斗は直感的に確信していた。
「いくつ? 」
「3ヶ月です」
「いや、だから君の年令だよ」
「あ⋯⋯ 23です」
「⋯⋯ 」
23才。大学を卒業したばかりの年令だ。
「で、その子は兄の子だと? 」
「そうです! 」
「顔もわからないのに? 」
「! でも、彼の賢斗さんの子なんですよ? 」
「⋯⋯ 」
「か、鑑定してもいいですよ? 」
「で、どうしたいんだ? 」
と聞いた時、彼女の顔に思い詰めた表情が浮かんだ。
まさに現実なんだ。
彼女は、こんなだ。
母親だか何だかは分からないが、子供の責任をなぜだか取らなくてはいけないのは確かなようだ。ものすごく困っているのは紛れもない事実なのだろうと、秀斗は思った。
「認知を⋯⋯ 」
それから羞恥心でいたたまれないような表情をした。
「慰謝料をください」
とやっと言ってから、両手がぐっと握り込まれた。責任を逃げる男への怒りが伝わってきた。
沈黙が落ちる。
赤ちゃんの機嫌の良さそうな音だけがする。
ぱたぱたと手足を動かして、うぐうぐと手を見たりなめたり。
この子の将来を、彼女だけが担っているのだ。
不思議と秀斗は彼女の気持ちがすんなりと、赤ん坊を目の前にして、いとも自然に思えた。
彼女が誰であれ、赤ん坊のことを考えている事だけは分かるからだ。
彼女の表情は素直で、真っ直ぐに心に入ってくる。
「残念ながら、最近、兄の賢斗と連絡がつかないんだ」
と秀斗が言った。
「えっ? 」
「愛する女性にふられたと言い残して、そのまま半年以上連絡がつかない」
「お、奥さんに逃げられたの? 」
「は? 奥さん? 兄にそんなのはいないよ」
だだっ広い畳の部屋で、女性は焦りながら下を向いておむつをかえている。
柔らかそうなウェーブの髪が肩にかかり、困り果てた眉毛も、目も、垂れ下がっていて、とても詐欺を働くようにも見えなかった。
しかも、男に妊娠中に捨てられたような、そういった悲壮な影も全くない。
それでも本当に兄の子だと言いはるのか。
「名前は? 」
「賢次です」
「⋯⋯ 君の名前だ」
「はい? わたし? 」
「そう、子供の名はもうわかっている。賢斗の子供の賢次だろう。君の名前だ」
「あ、ゆりです? 宮前ゆ⋯⋯ りです」
自分の名前だろうに、言いにくそうに名乗った。本名じゃないなと秀斗は直感的に確信していた。
「いくつ? 」
「3ヶ月です」
「いや、だから君の年令だよ」
「あ⋯⋯ 23です」
「⋯⋯ 」
23才。大学を卒業したばかりの年令だ。
「で、その子は兄の子だと? 」
「そうです! 」
「顔もわからないのに? 」
「! でも、彼の賢斗さんの子なんですよ? 」
「⋯⋯ 」
「か、鑑定してもいいですよ? 」
「で、どうしたいんだ? 」
と聞いた時、彼女の顔に思い詰めた表情が浮かんだ。
まさに現実なんだ。
彼女は、こんなだ。
母親だか何だかは分からないが、子供の責任をなぜだか取らなくてはいけないのは確かなようだ。ものすごく困っているのは紛れもない事実なのだろうと、秀斗は思った。
「認知を⋯⋯ 」
それから羞恥心でいたたまれないような表情をした。
「慰謝料をください」
とやっと言ってから、両手がぐっと握り込まれた。責任を逃げる男への怒りが伝わってきた。
沈黙が落ちる。
赤ちゃんの機嫌の良さそうな音だけがする。
ぱたぱたと手足を動かして、うぐうぐと手を見たりなめたり。
この子の将来を、彼女だけが担っているのだ。
不思議と秀斗は彼女の気持ちがすんなりと、赤ん坊を目の前にして、いとも自然に思えた。
彼女が誰であれ、赤ん坊のことを考えている事だけは分かるからだ。
彼女の表情は素直で、真っ直ぐに心に入ってくる。
「残念ながら、最近、兄の賢斗と連絡がつかないんだ」
と秀斗が言った。
「えっ? 」
「愛する女性にふられたと言い残して、そのまま半年以上連絡がつかない」
「お、奥さんに逃げられたの? 」
「は? 奥さん? 兄にそんなのはいないよ」