*夜桜の約束* ―春―
 思えば施設の頃からジャージやTシャツ、良くてパーカーにジーパンの生活だった。

 学校には制服で通っていたし、家族や親戚が存在しないため冠婚葬祭もまず有り得なかった。

 サーカスでも練習着や本番の衣装以外は、自分だけでなく団員の殆どがジャージ姿だ。

 休演日にもどこへ行くあてもなかったから、高岡邸でのこのスカートなど制服以来の経験だった。

「あ、あの……こちらでご馳走になっているだけでも申し訳ないと思うばかりですし……かといって自分で支払えるほどお財布に余裕もないのですけれど……」



「「それがお嬢様のいけないところなのでございますっ!!」」



 ──え……?

 遠慮がちな自分の台詞に応戦するように跳ね返ってきた二人の言葉は、いつになく語気の強い心からの叫びだった。

「も、申し訳ございません、驚かせてしまいまして……でもこれがわたくし共と、おそらくご主人様も感じていらっしゃる気持ちです。どうかせめて明日まででも、わたくし共を家族とお思いくださいませ。お嬢様にご家族がいらっしゃらなかったのは存じております。それでも以前いらした場所でも、今の場所でも、お仲間の皆様は家族同然だったのではないでしょうか?」


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