*夜桜の約束* ―春―
助走をつけ走りに走った。
まだ春の朝の空気は冷たく、頬を掠める風は痛かった。
近付くにつれやや左に身体を傾け、素早く繰り出す足の裏をブロック塀に着地させる。
蹴り落とすように反動をつけて、伸ばせるだけ伸ばした腕の先端が、かろうじて山の麓の上を捉えた。
両手でがっしり掴んだが、身体前半分が勢いの分だけその硬い金属板に激しく打ちつけられた。
「くそっ……ぃってぇ~!」
強固な上に冷気が浸み込んだようにひやっとする障害物。
ぶら下がった状態のまましばらく身動き出来ずにいたが、ブランコで培った握力と腕力で何とか自分の身体を持ち上げる。
麓の頂上に足を掛けたその時──。
「うっ、うわっ!」
自分が抱え込んでいた板そのものが向こう側へひしめき、凪徒の身体がバリケードの裏側へ飛んだ。
──川?
視界に広がる緑と青。
空を流れる彼の身体は、その鮮やかな色へと弧を描いて落ちていった──。
まだ春の朝の空気は冷たく、頬を掠める風は痛かった。
近付くにつれやや左に身体を傾け、素早く繰り出す足の裏をブロック塀に着地させる。
蹴り落とすように反動をつけて、伸ばせるだけ伸ばした腕の先端が、かろうじて山の麓の上を捉えた。
両手でがっしり掴んだが、身体前半分が勢いの分だけその硬い金属板に激しく打ちつけられた。
「くそっ……ぃってぇ~!」
強固な上に冷気が浸み込んだようにひやっとする障害物。
ぶら下がった状態のまましばらく身動き出来ずにいたが、ブランコで培った握力と腕力で何とか自分の身体を持ち上げる。
麓の頂上に足を掛けたその時──。
「うっ、うわっ!」
自分が抱え込んでいた板そのものが向こう側へひしめき、凪徒の身体がバリケードの裏側へ飛んだ。
──川?
視界に広がる緑と青。
空を流れる彼の身体は、その鮮やかな色へと弧を描いて落ちていった──。