*夜桜の約束* ―春―
 支度が整いダイニングに向かったモモは、(たたず)む三人を見つけて朝の挨拶をした。

 既に桔梗はいつもの調子を取り戻している。

 明るく返された言葉に笑顔で応え、モモは花純の差し出す温かな包みを受け取った。

「お嬢様、車内でお召し上がりくださいませ。朝食でございます」

 それすら後回しに出掛けるほど急いでいるとは驚きだった。

 高岡も二人のやり取りを確認するや腰を上げ、エントランスへモモを(いざな)う。

 後ろに続く双子のメイドを振り返りながら、少女は戸惑いを隠せずそれに続いた。

「「お嬢様、またいつでも遊びにいらしてくださいませね」」

「花純さんも桔梗さんもお元気で。あの、サーカスも是非見に来てください!」

「「はい。『桃瀬』お嬢様の素晴らしい演舞を楽しみにしております」」

「え……?」

 本当の名を呼び、そっと手を回して優しく柔らかく抱擁する二人に、モモは再度驚いて言葉が出なかった。


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