*夜桜の約束* ―春―
「はっ、放してっ」
男は体勢を整えながら、その手の力を弱めるどころか強く握り締めた。
鋭い目つきがモモを貫き、口元は嬉しそうに片側の口角がいやに吊り上がっている。
何かが狂ったような歪んだ嗤い。
この男の狙いはやはり自分だったのだと、モモはハッとして初めて感じる恐怖に心の底から慄いた。
が、その時。
キリキリと音を立てそうなほど自分の手首を締める男の握り拳が、また別の誰かの手で捕らえられた。
目線を右へ上げる──おどけたピエロ……暮さん?
ピエロは陽気なステップを踏みながら男をわしづかみにし、一緒にダンスを踊ろうとその身体を抱え込んだ。
周りで唖然としていた見物客からクスクスと笑いが起こる。
同じく呆然としゃがみ込んでいたモモは、暮の目配せで自分を取り戻すと腰を上げた。
──ここは任せて、モモは逃げろ。
そう言われたのだと気付き、銃を懐に隠したまま身を小さく屈める。
一番近い出口から一目散に走り去った。
☆ ☆ ☆
男は体勢を整えながら、その手の力を弱めるどころか強く握り締めた。
鋭い目つきがモモを貫き、口元は嬉しそうに片側の口角がいやに吊り上がっている。
何かが狂ったような歪んだ嗤い。
この男の狙いはやはり自分だったのだと、モモはハッとして初めて感じる恐怖に心の底から慄いた。
が、その時。
キリキリと音を立てそうなほど自分の手首を締める男の握り拳が、また別の誰かの手で捕らえられた。
目線を右へ上げる──おどけたピエロ……暮さん?
ピエロは陽気なステップを踏みながら男をわしづかみにし、一緒にダンスを踊ろうとその身体を抱え込んだ。
周りで唖然としていた見物客からクスクスと笑いが起こる。
同じく呆然としゃがみ込んでいたモモは、暮の目配せで自分を取り戻すと腰を上げた。
──ここは任せて、モモは逃げろ。
そう言われたのだと気付き、銃を懐に隠したまま身を小さく屈める。
一番近い出口から一目散に走り去った。
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