*夜桜の約束* ―春―
「あっ……こ、怖かった……」

 テントを駆け抜けて、いつの間にか敷地の境界まで一気に走っていた。

 胸に抱えた銃を思い出して慌てて手を放し、草の上に鈍い音が響く。

 本物ではないが、かなり本格的に造られたエアソフトガンだ。

 一昨日のようにフェンスにもたれて、桜見物の人の山をぼおっと眺めた。

 先程あんなことが遭っただなんて、嘘のように思えてしまう麗らかな情景が広がっていた。

 ──あの人の標的は、結局あたしだった……先輩を狙ったのはあたしのパートナーだから? それとも先輩を襲えば、あたしをおびき寄せられると思ったんだろうか? もし命中していれば大騒ぎどころじゃなかった……その混乱に紛れてあたしを誘拐するつもりだったの?


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