*夜桜の約束* ―春―

[11]桃瀬と明日葉

 厚手のカーテンの一部が引かれ、レースを(とお)して春らしい陽差しが差し込まれた。

 暖かく(まばゆ)い、あたかもオーロラのような緩やかな光の波。

 モモはいつになく深い眠りに包まれていた。

 柔らかで肌触りの良い布の感触、背中に感じるシーツの下のマットは、ちょうど良い硬さで心地良い。

 二年に一度の慰安旅行で出掛けた時でも、こんなに伸び伸びと身体がリラックスしたことはないと思われた。

 まるで海の中をプカプカと漂っているように、心まで宙に浮かんでしまいそうだ。

 左側のそんな明るさから寝返りを打ち、鼻をくすぐる薔薇のふくよかな香りでふと目を開いた。

 ぼやけた視界は淡いピンク色。

 桜の絨毯の上にでも横になっているのかしら──?

「──はっ!」

 夢心地の世界からようやく現実を思い出して、モモはいきなり飛び起きた。

 眠気(ねむけ)(まなこ)(こす)り慌てて辺りを凝視するが、どうしても夢から覚めたとは思えない。

 目を覚ましたという夢でも見ているのだろうか? もう一度眠ってみれば夢から覚める?


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