*夜桜の約束* ―春―
[3]願いと春風
春先の夜更けの闇は肌を刺すように冷たい。上着を重ねてお気に入りの膝掛けも羽織る。
準備万端、モモは他の女性達を起こさないように、そっと扉を開け外へ出た。
夕食前にお花見を堪能した敷地の角へ足を運んだ。あそこからは少々遠目だが、眼下に並木を一望出来る。
モモは白い息を吐きながら、やがて自分の立っていた場所にのっぽの人影を認めた。
「……先輩?」
「ん? 何だ……眠れないのか?」
「先輩こそ」
まさか夕食前の暮の一言が気になって眠れなくなった。
とは言い難いと、凪徒は目線を空へと上げた。
「あたしは夜桜を見に来ただけですよ」
少女は一つ笑みを零し、青年の隣でフェンスにもたれかかった。
時間も時間なため既に見物人もなく、露店も布が掛けられて静かだが、街灯に照らされた桜は今も華やかだ。
「片付けの後にでも行ってくれば良かったのに」
相変わらずそっけない口調で返された凪徒の言葉に、
準備万端、モモは他の女性達を起こさないように、そっと扉を開け外へ出た。
夕食前にお花見を堪能した敷地の角へ足を運んだ。あそこからは少々遠目だが、眼下に並木を一望出来る。
モモは白い息を吐きながら、やがて自分の立っていた場所にのっぽの人影を認めた。
「……先輩?」
「ん? 何だ……眠れないのか?」
「先輩こそ」
まさか夕食前の暮の一言が気になって眠れなくなった。
とは言い難いと、凪徒は目線を空へと上げた。
「あたしは夜桜を見に来ただけですよ」
少女は一つ笑みを零し、青年の隣でフェンスにもたれかかった。
時間も時間なため既に見物人もなく、露店も布が掛けられて静かだが、街灯に照らされた桜は今も華やかだ。
「片付けの後にでも行ってくれば良かったのに」
相変わらずそっけない口調で返された凪徒の言葉に、