*夜桜の約束* ―春―
「今もサーカスで調理当番が回ってくるんですけど、以前もお世話になった施設で補助的なことはやっていたんです。でもなかなか定番料理以外は見たことなくて……あ、これ、いちょう切りにすればいいんですね?」
モモは洗ってザルに上げたニンジンを手に、まな板の前へ移動した。
「そうでございましたか。手慣れていらっしゃると思いました。……あの、お嬢様? サーカスにお戻りになられても、またこの辺りで巡演される時にはいつでもいらしてくださいましね。他にも沢山レシピはございますし、えっと、その……」
笑顔で返答していた筈の桔梗の手が止まり、言葉も小さくくぐもって消えてしまった。
それを見つめる花純も口元を歪めて立ち尽くしてしまう。
明日葉と共に過ごした懐かしい時間がクロスし、三日先に見える再びの寂しい未来を思い出したのだろう。
「や、やだなぁ、花純さんたら、もちろん休演日には遊びに来ますから!」
「お嬢様、泣いたのは桔梗でございますよ」
「あ……あれ?」
モモは隣に立つ桔梗の左の耳たぶを凝視する。
確かに小さなほくろが一つ……目を丸くして謝るモモに、二人はいつもの笑顔を取り戻した。
モモは洗ってザルに上げたニンジンを手に、まな板の前へ移動した。
「そうでございましたか。手慣れていらっしゃると思いました。……あの、お嬢様? サーカスにお戻りになられても、またこの辺りで巡演される時にはいつでもいらしてくださいましね。他にも沢山レシピはございますし、えっと、その……」
笑顔で返答していた筈の桔梗の手が止まり、言葉も小さくくぐもって消えてしまった。
それを見つめる花純も口元を歪めて立ち尽くしてしまう。
明日葉と共に過ごした懐かしい時間がクロスし、三日先に見える再びの寂しい未来を思い出したのだろう。
「や、やだなぁ、花純さんたら、もちろん休演日には遊びに来ますから!」
「お嬢様、泣いたのは桔梗でございますよ」
「あ……あれ?」
モモは隣に立つ桔梗の左の耳たぶを凝視する。
確かに小さなほくろが一つ……目を丸くして謝るモモに、二人はいつもの笑顔を取り戻した。