*夜桜の約束* ―春―
「晴れた海が一番ですけど、こういう天気も悪くないですね」

 しとしとと降る雨は不思議と優しく感じられた。

 温かくはないけれど、守られている感じがする。

「そうだね。明日葉も雨の日が好きだった。雨は全ての悲しみを洗い流してくれる。そんな気がすると言っていた」

「悲しみ……」

 明日葉はどんな気持ちで病室や自室からその雨を眺めていたのだろう。

 そう思ったら、自分の身体の自由さはどれほど幸せなことかしれない。

「君は……いつもそんな調子なのかい?」

「え?」

 ふと掛けられた質問に、モモは眼下の海から自分に向けられた高岡の顔を見上げた。

「何て言うのかな。私に敬語を使うのは仕方がないのだろうが、それに遠慮や気遣いが切なくなるほど感じられる……君は今いる場所でもそういう口調なのかい?」

「今いる場所……」

 ──サーカス。

 自分ではそんなつもりなどないとモモは思ったが、その言葉が引き金となって、凪徒と暮の言葉が思い出された。


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