我が身可愛い大人たち
有頂天外
「レインボーブリッジの夜景を見せてあげる」
平和真は帰りがけ、同じ部署で働く派遣社員の吉野絵里奈をドライブデートに誘い出した。
四月中旬、平日の夜。妻の美鳥は休みだが、自宅のトレーニングルームにこもって出てこない。和真の相手より自分の体を鍛えることの方が彼女にとって重要なのだ。
「ねぇ、また車でですか?」
「文句言わない。狭いところでするの好きでしょ?」
「もう……」
しかし、目的地の埠頭に着いてみれば、彼は夜景を楽しむ時間すら惜しむように、助手席のシートをめいっぱい倒した。そして、絵里奈にのしかかり強引に唇を奪う。
妻とは違う、瑞々しく張りのある頬を撫でながら、何度も角度を変えてキスを繰り返す。
不満そうだった絵里奈の口から甘いため息が漏れ始めると、欲情のままに彼女の服を剥ぎ、豊満な胸をまさぐった。
「絵里奈ちゃん……」
彼女とする時、和真は妻との行為では得られない高揚感に包まれ、会社でのしがらみや妻との微妙な夫婦関係を忘れられる。
ただひとりの人間、または人間以下の動物にまで退化していくこの時間が、和真にとっては癒やしだった。しかも――。
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