我が身可愛い大人たち
『もう少し、男らしい筋肉を付けたくて』
美鳥が初めて和真をカウンセリングした時、彼は照れくさそうにそう言った。
和真は確かに線の細い体つきで、筋肉も少ない。運動も苦手らしいので、美鳥は少ない負荷のトレーニングから始めて、無理なく筋肉をつけるメニューを提案した。
運動が苦手な会員は三日坊主になることも多いのだが、和真はまじめにジムに通い、体力と筋肉を少しずつ増やしていく。
美鳥が専属トレーナーというわけではなかったが、和真の頑張る姿に好感を持ち、顔を会わせたときに励ますような関係になっていった。
一方同じ頃、美鳥はしつこい男性会員に迫られて困っていた。ジムで会うたびに食事に誘われ、断ると連絡先を乞われる。
それでも毎回丁重に断っていたが、ある日、夜に仕事を終えた美鳥をジムの外でその男性が待ち伏せしていた。
男性は身長一八〇センチ超えの屈強な体つき。本気で乱暴されたら太刀打ちできないため、美鳥はいつでもジムに駆け込めるよう警戒心を張り巡らせ、『こんばんは』と挨拶した。
男は胡散臭い笑みを浮かべ、美鳥に近づいてくる。