我が身可愛い大人たち

『美鳥さん、今日はもう終わりでしょう? メシ行きましょうよ』
『すみません、今日はちょっと……』

 美鳥がやんわり断ると、男性は微かに舌打ちをした。それでも美鳥の耳にはしっかり聞こえたため、ますます危険を感じて小さく後ずさる。

 するといきなり男性の手が伸びてきて、美鳥の手首を強引に掴んだ。美鳥はひゅっと息をのむ。

『やめてくださいっ……』
『彼氏いないんだろ? ガード固すぎる女は可愛くねぇぞ』

 だったら誘わなければいいでしょうと思うも、逆上されるのが怖くて美鳥は声を出せない。その時、ジムの入り口の方から誰かが駆けてくる足音がした。

『な、なにをしているんですか!?』
『平さん……』

 息を切らせてふたりに駆け寄ってきたのは和真だった。すかさず屈強な男性が彼を睨んだが、和真も歯を食いしばって男性を睨みつける。

『この手を放してください』
『なんだお前、誰だ?』
『僕もジムの会員です。お、お世話になっているトレーナーさんが困っている様子だったので、みみ、見過ごせなくて』

 緊張しているのか、屈強な男性に恐れをなしているのか、和真は時折言葉を詰まらせる。

 彼の身長は一七〇センチ弱といったところなので、対格差もかなりある。

 しかし、自分より明らかに強そうな見た目の相手に立ち向っていく姿は勇敢で、美鳥は頼もしく思うとともに深く感謝した。

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