我が身可愛い大人たち
『うるせぇな……俺は本気で美鳥さんを口説きたいんだよ。男女のことに首を突っ込むな』
男のひと言で、美鳥はさらに体を強張らせる。食事に誘うのは、やはり下心があるからなのだ。薄々わかってはいたが、ハッキリ口にされるとますます嫌悪感が増す。
『だったらますます退けません』
『あぁん?』
『僕も美鳥さんに惚れています。あなたのような乱暴者には渡さない』
凛とした眼差しで宣言した和真に、美鳥の胸が、大きくトクンと鳴って揺れた。
それから彼は意外なほど強い力で美鳥から男の手を引きはがし、彼女を背にかばった。終始毅然とした態度の和真に、屈強な男もたじろぐ。
『……なんだよ。めんどくせぇ。男いるなら最初から言えよな』
気まずそうに首の後ろを撫で、男はジムの前から去っていく。その姿が見えなくなった瞬間、和真はドサッとその場に尻もちをついた。
『平さん? 大丈夫ですか?』
美鳥がとっさにしゃがみ込んでその顔を覗くと、和真は頭を掻いて笑った。
『あはは、腰抜けちゃいました。すみません、カッコ悪くて』