我が身可愛い大人たち
翌日、美鳥は七時に予約したレストランの個室に、十分前に到着した。
自分の誕生日に自分でディナーの予約を取ったという事実が切ないが、今の和真に期待するだけ無駄。とりあえず話し合いの場に姿を現してくれれば御の字だ。
美鳥はそんなことを思いながら腕時計を何度も確認し、緊張を紛らわせるように細く長く息を吐く。
悪いことをしているのは和真の方なのに、どうしてこちらまでこんな風に気を揉まなくてはならないのか。理不尽に思いつつも、ひたすら和真を待ち続ける。
しかし、一向に彼は現れない。思わずスマホを確認すると、ちょうど今届いたばかりのメッセージが一件。ほかでもない、和真からだった。
(まさか、バレンタインの時と同じくドタキャン……?)
美鳥は眉根を寄せてメッセージアプリを開く。
【ごめん!残業で行けなくなった! 誕生祝いは明日必ずするから!】
いかにも切羽詰まっているような文章だが、残業は嘘だと美鳥は直感した。
和真は話し合うつもりがない。美鳥がどんな思いで今日を迎えたのか、想像しようともしない。
おそらく興味もないのだろう。浮気相手に夢中で、浮かれきっている。