我が身可愛い大人たち

「平さん、もっと強く噛んで……っ」
「相変わらずドМだね、絵里奈ちゃんは」
「平さんだけ。平さんにだったら、ひどくされたいんです……っ」

 涙目で懇願され、和真の下半身が熱を持つ。リクエストに応えるように歯を立て、絵里奈の胸の頂をいたぶる。

 彼女が乱暴な行為を好むのは今に始まったことではなく、元々そういう嗜好なのだそうだ。

『お姫様扱いされるのはもちろん好きですけど、それだけじゃつまらない。心のどこかでいつも、めちゃくちゃにされたいって思ってるんです』

 過去、行為の最中に絵里奈が口にした言葉だ。つまり、絵里奈は不倫向きの女性だった。

 今年の二月に和真の働く中堅の製薬会社に派遣社員としてやってきた絵里奈は、緩く波打つロングヘアと大きな猫目が特徴の二十四歳。

 器用で人当たりがよく、正社員たちと円滑に人間関係を築き、和真も部署の責任者として『いい派遣さんが来てくれたな』と思っていた。

 彼らの関係が形を変えたのは、絵里奈が派遣されてちょうど二週間が経ったバレンタインデー。

 和真は仕事の後で妻の美鳥と食事の約束をしていたが、帰りがけに絵里奈から『仕事のことで相談があるんです』と大きな瞳を潤ませて言われると断れなかった。

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