我が身可愛い大人たち
雅巳は父親が経営するコンクリート製品工場の御曹司だった。
大学卒業後は自動的に父親の会社に入ることが決まっており、学生生活の合間にも現場に出て仕事を学び、忙しい日々過ごしていた。
恋愛面では、美鳥のことは美しい初恋の思い出として胸に留めつつ、いつまでも引き摺っていてもしょうがないと、何人かの女性と付き合った。
それなりに楽しい時間は過ごしたが、それでも美鳥に抱くような感情は持てず、数カ月で別れることの繰り返し。
そして二年が経とうとしていた頃、地元で成人式が行われることとなった。
式の後はホテルの宴会場を借りた同窓会も企画されるらしい。
美鳥に会えるかもしれない。そう思うだけで雅巳の心は浮き立ち、同窓会のハガキを受け取ってすぐ【参加】に〇をつけ、ポストに投函した。
迎えた当日、雅巳は成人式の間中はキョロキョロと辺りを見回していたが、美鳥の姿が見えない。
振袖姿の彼女は人目を引く美しさに違いないが、にもかかわらず目に留まらないということは、欠席しているのだろうか。
半分あきらめかけたが、雅巳は同窓会まで期待を捨てることができず、ホテルに移動した。