我が身可愛い大人たち
雨過天晴
絵里奈は四人兄弟の末っ子だった。上の兄弟は全員男だったためか、生まれた頃からずっと『絵里奈は本当に可愛いね』と言われ続けてきた。
普通に考えれば自己肯定感たっぷりな子どもに育ちそうな環境だが、絵里奈は少し違った。
『可愛い』と言われるのは単純にうれしい。しかし、誰からも言ってもらえないと、必要以上に不安になってしまうのである。
だから、絵里奈は常に自分をよく見せる努力を怠らなかったし、万人に好感を持ってもらえるような言動を心掛けた。
それは簡単なようで、とても疲れる作業である。
成長するにつれ絵里奈も段々と面倒になってきたが、それでも『可愛い』のひと言が欲しくて自分を偽り続ける。しかし大学生の時に、彼女は転機を迎える。
きっかけは、サークルの先輩との初体験。絵里奈は行為の最中、今までにないほど『可愛い』の応酬を受け、これは手っ取り早くて楽だと思った。
裸になって抱き合えば、男の人は簡単に絵里奈を満足させる言葉を吐く。しかも、惜しげなく何度も。
これに味をしめた絵里奈は、『可愛い』のひと言欲しさに数多の男たちを渡り歩き、自分を満たしていく。
しかし、その方法も永遠に使えるというわけではなく――。