我が身可愛い大人たち
高価なものでも要求されるのかと雅巳は身構えた。
『なんだよ、褒美って』
『一回だけでいい。可愛いって、たくさん言って、お姫様みたいに、抱いて』
絵里奈がその本音を男性に直接ぶつけたのは、久しぶりのことだった。いい加減、大切にされることに飢えていたのだ。
その相手は雅巳がいいと、一夜で彼に惹かれた絵里奈は純粋に思っていた。
しかし、雅巳が彼女の本心を知る由もない。
結局やりたいだけかと冷めたように思うとともに、結局絵里奈にはなにもできないだろうとタカをくくり、『勝手にしろ』と告げた。
絵里奈はその日から、〝ご褒美〟のために動き始めた。
和真の会社が派遣社員を募集していると知ると、それまで正社員で勤めていた会社を辞め、派遣会社に登録。
和真の会社に派遣してほしいと強く訴えるとともに、担当者と枕を交わし、無事和真の会社に、しかも彼の部署に派遣された。
絵里奈からその報告を受けただけでも雅巳は驚いたが、バレンタインにチョコレートを渡しあっという間に不倫関係に持ち込んだ絵里奈の手練手管には舌を巻くばかりだった。
穿いていた下着を故意に和真の車に忘れるなど、美鳥の心にダメージを与えるのも忘れない。
雅巳は日に日に美鳥を手に入れられる確率が高まっていると思うと、今さら絵里奈に『やめろ』とも言えなかった。