我が身可愛い大人たち
絵里奈は雅巳に与えられるご褒美のためなら、和真の前では本当の自分とは真逆の女性を演じることもできた。
『お姫様扱いされるのはもちろん好きですけど、それだけじゃつまらない。心のどこかでいつも、めちゃくちゃにされたいって思ってるんです』
絵里奈はそうしたセリフが男性の心に火をつけるのを経験上知っていた。
体と心の一部を明け渡し、数多くの男性と寝てきた経験は決して無駄ではなかった。雅巳のために働く、今この時のためだったのだ。
和真との逢瀬の間も、絵里奈はいつもその肩越しに、雅巳の姿を映していた。
そして迎えた四月十五日、美鳥の誕生日の夜。
絵里奈は物わかりの良い不倫相手の仮面を脱ぎ捨て、和真に迫っていた。
オフィスでは人目があったため、バレンタインの時に和真にチョコレートを渡したのと同じ小会議室に彼を呼び出し、扉のカギを閉めるや否や、彼に抱き着いた。
「絵里奈ちゃん、なんで……」
「なんでって……わからないんですか? 奥さんのもとに行かせないためです」
驚く和真に絵里奈は自分からキスをし、ジャケットを脱がせる。そしてスラックスのベルトに手をかけたところで、和真が慌てて彼女の手を掴んだ。