我が身可愛い大人たち
《はい》
「あっ、雅巳くん? 私、頑張ったよね? 誕生日、ぶち壊せたよね?」
雅巳からの返答はない。絵里奈の胸は緊張でバクバク鳴っている。
《……終わりだ》
「えっ?」
《梓沢は……思った通り、梓沢だった。俺の胸でひとしきり泣いた後、彼女に言われたんだ。いくら旦那に裏切られようと、俺の好意を利用してまで自分の喪失感を埋めようとは思わないと。連絡先も、お互いにその場で消した。お前のしたことは無駄だった》
「そんな……」
絵里奈の指先から血の気が引いていく。会社を辞め、男たちに体を開き、雅巳の恋が成就するようひたすら願ってきた日々が、全部否定された。
どうして失敗したのだろう。どうして。
自問自答を繰り返す絵里奈の耳に、雅巳が冷たく告げた。
《もう二度と会うこともないから言うが、足を開けば男を意のままに動かせると思っているならその考えは改めた方がいい。自分も相手も不幸にするだけだ》
絵里奈がなにか言う前に、雅巳はさっさと通話を切ってしまう。絵里奈は耳から離したスマホを胸に抱き、ぽつりと呟く。
「意のままに……なんて、思ってない」
(ただ、可愛いと言ってほしいだけ)
絵里奈はひとりになった室内で、しばらく動けなかった。
口の中に残るべたつきと生臭さが、ただただ虚しかった。