我が身可愛い大人たち
――それから、一週間後の夜。
「平さ――じゃなくて、梓沢さん、お客様です」
フロントの女性スタッフが言うのを聞いて、絵里奈は(ふうん、離婚したんだ)と思う。
声をかけられた美鳥は、不思議そうに絵里奈の待つロビーのベンチまで歩いてくる。
トレーニングウエアに身を包む美鳥はすらりと背が高く、胸もお尻も筋肉ばかりで硬そうだ。
(どうしてどいつもこいつも、私よりあっちがいいわけ……?)
絵里奈はぎりっと奥歯を噛んだ。雅巳にも和真にも見捨てられた彼女は、美鳥に憎しみの矛先を向けていた。
彼女がこのジムに勤めているというのは和真に聞いて知っていたが、わざわざ会いに来たのは、なにもかも、なかったことにしたいからだった。
雅巳との出会いも、和真との逢瀬も……そして美鳥に抱く、すさまじい嫉妬と劣等感も。
「お待たせしました、梓沢ですが」
絵里奈はベンチから立ち上がり、美鳥を挑戦的に見つめた。