我が身可愛い大人たち
「お話があります。和真さんのことで」
美鳥は驚いて目を見開いた。それから周囲を窺い、小声で絵里奈に尋ねる。
「もしかして、あなたが和真の……?」
「そうです。離婚したから終わりだと思わないでくださいね。こっちは傷ついてるんですから」
「それは私のセリフ……っ!」
絵里奈の態度にムッとした美鳥も思わず声を荒らげたが、直後に周囲の視線を感じ、恥じ入ったように肩をすくめる。
「場所を変えましょう」
「……ええ、望むところです」
美鳥は絵里奈を一般立ち入り禁止の屋上へと連れ出した。
ジムの入っているこのビルは六階建だが、周囲にはもっと高いビルも多く、暗い景色の中でビル風がごうごうと吹き荒れている。
「それで、和真についての話っていうのは……?」
屋上の中央で対峙した絵里奈に、美鳥がそう問いかけた瞬間だった。
絵里奈は無言で美鳥の脇をすり抜け屋上の端へ向かうと、胸の高さほどの手すりをひょいと乗り越え、屋上外周のコンクリート部分に立った。
足場は人ひとりがやっと立てる程度のスペースしかない。