Again〜今夜、暗闇の底からお前を攫う〜
「きっと、勉強が楽しくないって思う時が来ると思う」


夏休みで勉強に挫折してしまうのは避けたい。

夏が明けてからも、嫌でも勉強しなければいけないのだから。

なによりも奈都は頑張り屋だから、気付かないうちに頑張りすぎて体調を崩したりするのが怖かった。


「奈都がもし楽しくないって思ったら、私と一緒に楽しいことをやろう」

「楽しいこと?」

「うん、奈都が楽しくなれるようなことを一緒に私もやる」


そう言うと小指を立てた。


「だから約束して、楽しくない時は楽しくないってちゃんと言うこと。
頑張れない時は頑張れないってちゃんと言うこと」

「…約束?」


奈都は私の小指をじっと見つめたまま、突然黙り込んだ。


「…奈都?」

「…しない」

「え?」

「約束は、しない」


奈都は酷く動揺したように顔を歪めると、私から距離を取る。


「約束なんて口だけで何の意味もない」


奈都が苦しい顔をする時は大体カオルのことと、亡くなった両親のことだけだ。

私は気付かないうちに、奈都の弱い部分に触れてしまったのだと奈都の震える声から見て取れた。

この時初めて奈都の影を見た気がした。

安易に出した小指は行き場を無くし、私は静かに下ろした。
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