Again〜今夜、暗闇の底からお前を攫う〜
別に潜らなければ何の問題もないのだが、なぜか気が乗らなかった。

今更水着を買いに行くのも面倒臭いし、海を見れただけで充分だった。


「ほら、泳いできたら?」


そろそろ海に入りたそうにウズウズしている菜穂を置いて、私はまた日陰になっているところに腰を下ろした。


「暇になったら呼んでよねー!」


そんなに距離も離れていないのに、大きい声で私にそう言い残すと走って海に入って行った。

一人になった私は、ボーッと海を眺めながら、眠気がどっと来るのを感じ、それに抗わず目を静かに閉じた。

海ではしゃぐ人達の声が少しずつ遠のいていく。

日陰にいることで程よい暖かさと、涼しい風が髪を揺らして心地良かった。

静かなあの家で眠れなくなっていたあの時とは違う。

全てが180度変わってしまった、しかも良い方向に。

それもこれも全部カオルのおかげだった。
< 227 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop