Again〜今夜、暗闇の底からお前を攫う〜
「死んでしまえば、この罪悪感からも楽になれる。
だけど奈都を残して死ねなかった。
自分の生きる存在価値は、一生分傷つけた奈都を両親に代わって育てあげる、それだけだった」


奈都が以前私に言ったことを思い出した。

カオルにとって自分はお荷物だ、と。


「奈都のためならと、学校も中退して、金を稼ぐためにプライドも捨てて、夢も自由も全部捨てた」


子供だからと舐めてくる汚い大人もいただろう。

それでもカオルは我慢して耐えてきた。

だからカオルは今生きている。


「家に帰っても、奈都の笑顔がたまに直視出来なかった。
血の繋がりが無い奈都にとって、ただただ汚れていく兄を見てどう思っているのか、考える度にまた死にたくなった」


大丈夫、大丈夫だよカオル。

奈都はどんなカオルでもいつもみたいに「お兄」って呼ぶよ。


「奈都のためならいつでも捨てられるように、ずっと距離を置いて生きてきた」


その言葉を聞いて、カオルの優しさに涙がこみあげてくる。

奈都はお荷物なんかじゃない。

奈都の存在が今までカオルを生かしたんだよと、今すぐに私は奈都に教えてあげたかった。

カオルの隠している目元から、隠しきれない涙が頬を伝い雨と紛れる。

そしてカオルは震える声で言った。


「でも、Againは捨てれない。
捨てれなくて、しんどい」


カオルがあまり溜まり場に現れないのは、忙しいからとか女がいるからとかではなかった。

ただ、いつでも捨てれるように避けていただけだった。

だからカオルは、いつも一定の距離をあけて、深く干渉せず、フラッと顔を出してなんだ来てたのかくらいの距離感を保っていた。
< 321 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop