お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 大知さんはどうするのがいいんだろう?

『大知さんのいいようにしてください』

 あれこれ悩んだが、結局は相手に委ねる形になる。けれどたった数秒の沈黙が怖くなり、私から早口で捲し立てた。

『あ、あのベッドが必要ならこちらで』

『千紗がかまわないなら同じベッドで寝るか?』

 ほぼ同時に発せられた大知さんの答えに、私の思考は止まりそうになる。

 今、なんて?

 黙り込む私に、彼はゆっくりと続ける。

『わりと大きいから大人二人は余裕だろうけど、千紗が別々がいいなら』

『い、いえ。大知さんと同じで大丈夫です!』

 間髪を入れずに私は叫んだ。ややあって電話越しに大知さんが笑ったのが伝わってくる。

 もしかして私、大胆なことを言ってしまった?

 勢いよく答えた自分が居た堪れない。

『わかった。他に必要なものがあったらまた教えてほしい』

『はい』

 打って変わって肩をすくめて小さく答えた。

 大知さん、あきれたかな?

『千紗』

 聞くに聞けずにいると彼から名前を呼ばれた。

『千紗と一緒に暮らすのを楽しみにしている』

 穏やかに告げられ、私の気持ちは急浮上する。なにか返したいのに、おやすみと大知さんが続けたので、おやすみなさいと答えて電話はそこで終了した。

 その後も耳に残る大知さんの声に心臓が早鐘を打つ。もうすぐ始まる彼との新婚生活に期待と不安で胸がいっぱいだった。
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