お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「だって、大知さんはお姉ちゃんがお見合いを断ったから……私としょうがなく」

「なに言っているんだ。俺は最初から見合いも結婚相手も千紗を希望していた」

 私の言葉を遮り、きっぱりと言いきられた内容は、あまりにも予想外で信じられないものだった。

「え?」

 目を瞬かせ彼を見つめると、大知さんは私の頬に触れ、そっと涙を拭う。

「万希から聞いた。千紗に余計な話をしたって。伸行さんに見合い相手は千紗を、と伝えたとき、年齢的にも立場的にも万希がいいんじゃないかと強く言われたのは事実だ。そこで万希ともいろいろあったのかもしれない。けれど俺は千紗を譲らなかったし、千紗が断ったらこの話はないものにしてもかまわないと思っていた」

 大知さんが嘘をついているとは思えない。

 なら、あの姉の数々の発言は、父が原因なの? もしかしたら父は姉に先に話を勝手に通していて、そこでなにか齟齬があった?

 事実はわからないが、最初から大知さんが私を結婚相手として望んでくれていたと知って、胸のざわめきが幾分か落ち着いていく。

 一度唾液を飲み込み、声の調子を整えて笑顔をつくった。

「ありがとうございます。……私の方が大知さんの立場的にも都合がよかったから選んでくれたんですね」

『千紗ほど大知くんにとって条件のいい妻はいないもの』

 感情だけで動く人じゃないし、職業柄、結婚相手に求めるものもそれなりにあったはずだ。そんな彼にとって、どんな理由でも一番に望んでもらえたのなら……。
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