お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「そんなふうに思っていたのか?」

 ところが大知さんが心なしか怒った声で返してくる。続けて彼は私の頬に触れたまま、しっかりと目を合わせてきた。

「千紗が好きだから結婚したいと思った。強引なのは承知の上で、誰にも渡したくなくて、俺だけのものにしたかったんだ」

 真剣な眼差しで訴えかけられ、頭が真っ白になる。無意識に涙腺が再び緩み、目の奥が熱い。

「なん、で。だって大知さん一度も……」

 気持ちを口にしてくれたことなんてない。彼が私をそんなふうに想ってくれていたなんて、にわかには信じられるわけがない。

 私の顔色を読んだのか、大知さんの表情がどことなく苦いものになった。

「千紗は昔から、好きでもない男に好意を寄せられるのが苦手だっただろ? 恋愛もあきらめているって言っていたし、俺と結婚を決めたのも、割りきっている感じだったから」

 思わぬ指摘に目を見張る。まさか、それを気にして今まで想いを口にしてくれなかったの?

 私にそういうところがあるのは事実だが、彼の場合は前提が違う。

「そんなわけないです! 好きな相手とじゃないと結婚しません」

 きっぱりと勢いよく言いきる。すると彼の目が大きく見開かれ、大知さんは切なそうに顔をゆがめた。

「それは俺も同じだよ」

 そこで私こそ自分の気持ちを口にしていなかったと思い直す。もしかすると大知さんも私と同じような不安を抱いていたの?
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