お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 ちらりと視線を上げて彼と目を合わせたものの、恥ずかしさでそれ以上顔が見られず、伏し目がちになる。

「私、大知さんがずっと好きでした。姉と比較される機会が多い中、大知さんが名前を褒めてくださってすごくうれしかったです。大知さんはお姉ちゃんと比べたりせず、いつも私自身に向き合ってくれていたから……」

 それ以上は言葉にできない。伝えたい気持ちは山ほどあるのに……。

 もどかしさを覚えながら、上目使いに彼をうかがう。

「大知さんこそどうして私を」

「それは帰ってからゆっくり話すよ」

 彼の想いも聞こうとしたら、すかさず先手を打たれる。

 残念な気持ちが隠せず、つい唇を尖らせるとすばやく唇が重ねられた。

「なっ」

 夜とはいえ、ここは外だ。なにより大知さんがこんな行動を取るとは思ってもみなかった。うろたえる私に対し、彼は余裕たっぷりに微笑む。

「ここだと限界があるからな。早く千紗に触れたいんだ」

 頬がかっと熱くなる。大知さんは目を細め、私をもう一度抱きしめた。

「帰ろう、奧さん」

「……はい」

 さっきまでとは違う意味で涙があふれそうだ。自分の本音を受け止めてもらえて、心が軽くなる。昔からそう。やっぱり大知さんはすごい人だ。

 帰りながらまずは謝罪をして、先ほどの状況を説明する。

 今日はほかにも女性の先生が一緒で、彼女とは駅で別れ、送っていくとの申し出を受け入れたが、川島先生とはなにもないと言い訳がましく語った。

 大知さんは無言で話を聞いている。嘘はついていないけれど……信じてもらえるかな?
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