お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 そうこうしているうちに官舎の部屋まで帰ってきた。大知さんが鍵を開け、私は彼に続きおずおずと中に入る。

「本当は少しだけ疑っていたんだ」

 玄関のドアが閉まり、大知さんが発した言葉に身を固くした。大知さんはため息をついて自身の髪をくしゃりと搔く。

「ほかに好きな男ができたんじゃないかって。【ふたりで行きませんか?】なんてメッセージを送られているのを偶然見て、それから急に通勤する服装に気合いを入れだしたから」

「ち、違うんです!」

 なにから否定していいのかわからない。大知さんが勘違いしたのは、おそらく川島先生から届いたあのメッセージだ。

【土曜日、よかったらふたりで行きませんか?】

 姉が遊びに来て見送ったとき、スマホをリビングに置きっぱなしにしていた。そのとき、川島先生から届いたメッセージを意図せず大知さんが目にしたんだ。

 急いでバッグからスマホを取り出し、そのやり取りがあった画面を開いて、彼に差し出した。突然の私の行動に、さすがの大知さんも圧倒される。

「そこまでしなくていい」

「でも、大知さんに誤解されたくないんです」

 押しつけるようにしたからか、ややためらった後、大知さんはぎこちなく私からスマホを受け取った。

「格好に気合いを入れだしたのは、お姉ちゃんの影響です。ふたりが一緒のとき、同僚の方に『自慢の奥様ですね』って言われているのを偶然聞いて、私も大知さんの妻として、もっと見た目とかにも気を配らないと、って……」

 姉と大知さんがお似合いだから余計にそう思った。
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