お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 今さらながら自分の行動が恥ずかしい。

『けれど、身内以外の男を部屋に招き入れようとするのは感心しないな』

 やんわりたしなめられ、首をすくめた。

『そ、そうですね。でも初めてですし、こんな機会ももうないと思います。大知さんだけです。恋愛は無理だってもうあきらめていますから……恋人はこの二匹です』

 あいにく自室どころか家に招くほどの親しい男性もいないし、今後できる見込みもほぼない。余計なことをしてしまったと肩を落としながらミルクとココアを自室に戻す。

 振り向いたら彼と目が合い、大知さんは困惑気味に笑った。

『たしかに、これは恋に落ちるな』

 そこで姉が帰ってきて、私たちはリビングに戻る。大知さんと挨拶を交わした姉は、さっそく近況を口にしながら、大学での法律関係の授業について話しだした。

 やっぱり私と姉は大違いだ。あんなふうに大知さんと対等に会話できない。姉の分もお茶を淹れようとさっさとキッチンに戻った。

※ ※ ※

「あのとき千紗が無邪気に笑いかけてくれて、千紗なりに一生懸命元気づけようとしてくれただろ? 自分でも驚くほど素直に受け止められたんだ。いつも会うたびに笑顔で迎えてくれて、癒やされてまた会いたくなっていった」

 彼の話を聞いて、記憶が鮮明によみがえる。当時の気持ちまで。

 とはいえ、大知さんにとってそんな転機になる出来事になっていたなんて、まったく思いもしなかった。
< 112 / 128 >

この作品をシェア

pagetop