お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「でも私、法律とか、大知さんのお仕事に関してとか全然詳しくなくて……」

「そんなものは必要ない。千紗のご両親と話すと勉強になるし、自分のためにもなると思っている。でも、それはあくまでも法律家としてなんだ」

 私の不安を大知さんは即座に否定する。そして真剣な眼差しで、真っすぐに私を見つめてきた。

「精神的にも体力的にも身を削る日々の中で、千紗といると心が安らいで、癒やされる。裁判官の肩書きは関係ない、俺自身でいられるんだ」

 そんな深く考えて行動はしていない、と言おうとして言葉をのみ込んだ。代わりに大知さんとしっかり目を合わせる。

「私、これからも大知さんの奥さんでいてもいいですか?」

「いてくれないと困る」

 迷いない答えに涙がこぼれそうだ。ぎゅっと唇を噛みしめ、さらに問いかける。

「私は……大知さんにとって一番ですか?」

 子どもじみた質問だ。でもずっと姉の代わりだって、二番だって思っていたから。

「一番もなにも、千紗以外はいらないんだ。自分でも冷静な方だって自覚はしているが、千紗が絡むとそうはいられなくなる。なりふりかまっていられない。誰にも渡したくなくて嫉妬に振り回される。こんな気持ちになるのは千紗だけだ」

 こらえていた涙が頬をすべっていった。ゆっくりと顔を近づけられ、目を閉じると唇に温もりがある。大知さんの本音を聞いて、胸が詰まりそうだ。

 ところが私の希望とは裏腹にキスはあっさり終わり、戸惑いつつ目を開けたら大知さんがこつんと額を重ねてきた。
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