お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「嫌、じゃないです」

 あれこれ考える間もなく、否定の言葉が口をついて出る。目を見張る大知さんに必死に訴えかけた。

「大知さんにされて、嫌な気持ちなんてひとつもないです。ただ、経験がなさすぎて……いつもどうしていいのかわからなくて」

 消え入りそうな声で白状する。

 失望されたくない。そんな思いが空回ってばかりなのも自覚している。

「だったら、もう遠慮しなくていいんだな?」

 迫力ある声で、大知さんが切なそうに顔をゆがめながら尋ねてきた。

「遠、慮?」

 意味がわからずおうむ返しをしたら、大知さんにこつんと額を重ねられる。

「初めて千紗を抱いたとき、心ここにあらずで、あまりにもつらそうにしてたから、てっきり俺のことも俺に触れられるのも嫌なんだと思ったんだ」

 初夜を思い出し、顔が熱くなった次の瞬間、さっと青くなる。

 姉に言われた言葉や結婚した経緯もあり、たしかに私の心は揺れっぱなしだった。

 それをまとまりなく必死に説明するが、大知さんは渋い表情を崩さない。

「千紗と結婚して、自分のものになったからって強引に進めすぎたと後悔した。だから千紗の気持ちがちゃんと俺に向くまで手は出さないって決めたんだ」

 まさか大知さんがそんなふうに思っていたなんて考えもしていなかった。

 むしろ――。

「私、あまりにも大知さんに求められないから、あのときは結婚したから義務で抱いてくれたんだって思っていました」
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