お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「こっちは?」

「あっ」

 答えられずにいると、大知さんの手は胸もとに伸びてきて服の上から優しく触れだした。

 大知さん自身は私の首筋に顔をうずめ、薄い皮膚に音を立てて口づけていく。

 ぞくりと背筋が震え、声にならない悲鳴をあげたが、彼は私に触れるのをやめない。

 ゆるゆるとブラウス越しに与えられる刺激は絶妙で、もどかしささえ覚える。唇が肌に添わされ、生理的な涙が視界を滲ませていった。

 押し寄せる感情の名前がわからない。

「大知、さ、ん」

 ぎゅっと彼にしがみつき、助けを求めるように名前を呼ぶ。

「どうした? やめるか?」

 大知さんは顔を上げ、微笑みながらも意地悪そうに聞いてきた。小さく首を横に振る。

「やめて……ほしくない、です」

 正直に答えると、大知さんはすばやく私に口づけた。続けて視界が揺れ、突然の浮遊感に襲われる。

 大知さんが子どもを抱えるように私を正面から抱き上げたのだ。

「ベッドに行こう」

 打って変わって切羽詰まった様子で告げられ、その表情に見惚れる。ところが、すぐに帰ってそのままの状態だと気づいた。

「あ、あの。その前にお風呂とか」

「かまわない」

 慌てる私の言い分を一蹴し、大知さんは寝室に歩を進める。

「で、でも」

 さすがに足をバタつかせる真似はしないが、大知さんに反論しようとしたら、その前にベッドの端に下ろされた。

 そして大知さんはすぐさま私の正面からベッドに手を突き、目線を合わせる。
< 118 / 128 >

この作品をシェア

pagetop