お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 訳が分からず、隣に並ぶ姉の横顔をじっと見つめる。すると姉がこちらを向いて目が合い、にこりと微笑んだ。

『いつか大知くんも私じゃなくて千紗と結婚してよかったって思うわよ』

『……うん』

 冷水を浴びせられた気分になった。なにを浮かれていたんだろう。

 大知さんが私と結婚したのは姉が断ったからで、もしも姉が話を受けていたら彼は私と結婚していなかった。

 先ほど、大知さんの配属先の裁判所の話題で会話していた姉と彼の姿を思い出す。内部の細かい話は、私にはわからない。

 もちろん業務内容は身内とはいえ話せないが、業界の事情などは共感できるものが多いんだろうな。

 やっぱり大知さんは……。

 卑屈になりそうな気持ちを振り払い前を向いた。

 けれどその日の晩、いわゆる初夜。

 息の仕方さえ忘れそうなほどに緊張して、胸が張り裂けそうだった。初めてなのが理由じゃない。

 大知さんは、けっして無理強いはせず、何度もこちらの様子をうかがっては心配そうな眼差しを向けてくる。優しく抱き寄せられ、そっと口づけを落とされた。

 大切に扱われ、私も彼が大好きだから幸せなはずなのに、昼間の姉の言葉が頭から離れず、心の中がぐちゃぐちゃだった。

 姉の代わりだとわかっていて彼と結婚した。

 それなら今、彼の目の前にいる相手は本当に私でいいの?

『大知くん、千紗でもいいって』

『いつか大知くんも私じゃなくて千紗と結婚してよかったって思うわよ』

 それは、いつ?

 本人に直接尋ねる勇気もなく、思考を懸命に停止させる。なにも考えたくないという私の希望は、彼に溺れて叶えられた。
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