お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
『大知くんね、職場ではとっても愛妻家で有名らしいわよ。美味しそうなお弁当を欠かさず作ってくれて、お料理上手なうえ優しくて素直で、可愛らしい自慢の奥さんだって』

 大知さんが他人にそんなふうに私のことを伝えているとは……。聞いていて顔から火が出そうになる。

 ありがたいような恥ずかしいような。

『心配しなくても、同僚の人の勘違いは大知くんがすぐに否定していたからね』

「う、うん」

 ぎこちなく返すと、姉が電話の向こうで苦笑したのが伝わってきた。

『だからね、千紗が思うほど私はできた人間じゃないの。今の職業を選んだのも両親の影響で、私自身がどうしてもなりたかったわけじゃない。でも千紗は自分の好きなことを見つけて、仕事にして、ひと筋に愛してくれる人がいるじゃない』

「お姉ちゃん……」

 初めて聞く姉の本音に複雑な気持ちになる。

 私も姉に一方的なイメージを押し付けていたのかもしれない。完璧な人間なんているわけがない。逆に長所がない人間もいない。

 私たち姉妹はきっとお互いに近すぎる分、勝手にないものねだりをしていたのかも。

『妹だからって甘えていたところがあって、さんざん八つ当たりしてごめんね。でもね、いくら羨んでも千紗の不幸を願っているわけじゃない。可愛い妹だもの。幸せになってほしいって思っている。これは本当よ』

「うん。私だってお姉ちゃんのことが大好きで、憧れているところいっぱいあって、自慢の姉だよ」

 こうやって姉への気持ちを直接本人に伝えるのは私も初めてだ。

 第三者に勝手に姉妹で比べられて卑屈になって……それを振り払いながら認めることで楽になると思っていた。

 でも本当は比べる必要はないし、羨ましいところは素直に口にしてもいいんだ。

 それからしばらく他愛ない話で盛り上がり、私たちは電話を終えた。長い間、胸につっかえていたものがなくなって晴れ晴れしい気持ちになった。
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