お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「どうした? やめようか?」

 低く意地悪そうな声で問いかけられる。絶対にわかって言っているんだ。

「千紗」

 私の返事を促すように、艶っぽく名前を呼ばれる。それだけでゾクゾクと肌が震える。ずるい。大知さんはわかっているはずなのに……。

「いや、です。……やめ、ないで」

 観念して口を開いた。はしたないと思われたくなくて必死に言葉を紡ぐ。

「大知さんだから。……大知さんだけです。こんな気持ちになるの」

「ん。だったら俺のことだけ考えていたらいい」

 パジャマの上から触れていた大知さんの手が、裾からすべり込んできてじかに肌をなでる。与えられる快感に目を瞬かせる一方で、求めていた温もりに安堵の息が漏れた。

「甘い匂いがする」

 ふと首筋を甘噛みされ、吐息を感じるほどの距離でつぶやかれる。おぼろげになりそうな意識の中、そっと手もとに視線をやった。

「あ、ケーキが」

 最後まで言わせてもらえず、大きな手が頬に添えられ彼の方に向かされた。

「甘いのは千紗だよ」

 言い終わるのと同時に唇が重ねられる。少しだけ性急に唇を開かれ、彼の舌が差し込まれた。あっさり舌をからめとられ、深く求められる。

「ふっ……ん」

 応えるようにぎこちなく大知さんに身を寄せるけれど、従順な姿勢を見せるのが精いっぱいだ。

 いつの間にか彼と向き合う体勢に変えられ、正面から彼の口づけを受け入れる。

 上擦った声が漏れそうになるのをキスで封じ込められ、吐息と唾液が混ざり合う音だけがキッチンに響いた。
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