お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 おそらく彼にとっての妻の役目を果たせなかったのだろう。その証拠に、初夜から一ヶ月ほど経つのに、大知さんに抱かれたのはあの一回だけだ。

 スキンシップらしいスキンシップもない。さすがにこの状況は新婚夫婦としてどうなんだろう。客観的に見ても、これじゃ夫婦というよりただの同居人だ。

 一方、大知さんが忙しいのも事実。裁判官になって十年未満の人はすべて判事補となり、三人以上の裁判官で構成される合議体による審理に加わることができるが、裁判長として一人で審理を行う裁判はできない。

 つまり、裁判官としてのキャリアが十年以上となって晴れて判事として任命されると、裁判長を務められるのだ。

 ただし判事補経験が五年以上で特例判事補の指名を受ければ、単独で審理を行えるようになる。

 大知さんは六年目にして特例判事補となった。

 合議体の裁判では座る場所が変わり、それまでは裁判長の左手側、判事補が座る左陪席だったのが、職位の高い右陪席になったりと、責任や仕事量が一気に増えた。

 月に一度か二度、令状当番と呼ばれる宿直があり、逮捕勾留や捜索差し押さえなど差し迫った強制捜査に必要な令状をなるべく急いで審査しなくてはならない。

 夜通しかかる業務で、その翌日も通常勤務が一般的なので思った以上に体力勝負の面もある。

 新しい環境、新しい立場……大知さんが背負うものは私が想像する以上に大変なんだ。ならばせめて、私との生活くらいは彼の負担にならないようにしたい。
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