お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 あれこれ考えるのをやめて、私も出勤の準備をする。先週から私も働き始めた。

 勤務先は最寄り駅の近くにある企業主導型保育園で、小規模だからこそアットホームな雰囲気がある。育休を取得している保育士の代理として一年契約で勤務する予定だ。

 主に五、六歳児の担当となるみたいだが、まだしばらくはサブとして園全体の流れなどを覚えながら、年齢に関係なく対応している。

 母体は大手食品会社が運営しているので、預かっているのは近くにある支社の従業員の子どもたちがメインだ。

 ここでは〝逢坂先生〟と呼ばれるが、まだ慣れない。

「おはようございます」

「逢坂先生、おはよう。玲央(れお)くん、今日は体調不良でお休みみたい」

 私の母とおそらく同年代であろう園長先生に告げられ、目を丸くする。

「大丈夫ですか? 玲央くん、あんなに元気だったのに」

 玲央くんは五歳児クラスの男の子で、先週から現れた私によく声をかけてくれたので印象に残っている。

「ちょっと熱が出ちゃったみたいだけれど、あとは基本的に元気だそうよ」

「玲央くん、逢坂先生をすごく気に入って、連日テンションかすごかったですからね」

 私と園長先生の会話に男性の声が割って入った。

川島(かわしま)先生、おはようございます」

 黒に近い茶色の髪に、柔らかい笑顔。私よりひとつ年上の彼は保育士として勤務している川島雅彦(まさひこ)先生だ。ベテランのスタッフが多い中、年が近いのもあってなにかと気にかけてもらっている。
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