お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 受け身から思いきって、キスされたタイミングで軽く舌を差し出す。結果的に彼の唇を舐め取る形になり、大知さんは驚きでキスを中断した。

 さっき以上に大知さんの顔が直視できない。

 はしたないって思われた?

 引かれている可能性が頭の中を占領していく。けれど、どこか遠慮がちな彼の態度を優しさだと言いきれるほど、私たちの間に確かなものがないのも事実だ。

 だって彼は、本当はお姉ちゃんと……。

 思考が沈みそうになった瞬間、大知さんに口づけられる。

「……ん、んん」

 打って変わって強引なキスが始まった。唇の間に舌を差し込まれ、あっさりと舌をからめとられてつかまる。

 応えたいと思っても結局は翻弄されるだけだ。

「ふっ……ん……」

 自分からけしかけたくせに、衝動的に逃げ出したくなる。ところが大知さんの腕が体に回され、阻止された。それどころかきつく抱きしめられ、密着度が増す。

 キスはより深いものになり、彼の舌先が私の歯列をなぞって頬の内側を滑り、口内をくまなく蹂躙されていく。

 慣れない感覚に肩が震え、縋るように彼のパジャマを握ると、大知さんは落ち着かせるように私の頭を優しく撫でた。まるで子ども扱いだ。

 でも手のひらの温もりに安心して、無意識に視界が滲む。

「んっ……ん」

 ぎこちなく応えてみるが、これが正解なのか、知識も経験もなさすぎてわからない。

 私だけが甘くて痺れるキスに溺れていく。
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