お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 店に持っていき取りに行くのは、忙しい大知さんに代わって私が担っていた。

 本当にいい奥さんなら全部自宅でなんとかするんだろうな。

 自分の至らなさに肩を落としていると、彼からお礼の言葉が返ってくる。

 その弾みか、昨日車の中で思ったことが口をついて出た。

「大知さんの法服姿、また見たいです」

 慌てて訂正しようとしたが、その前に大知さんが余裕たっぷりに微笑む。

「いつでも職場に来たらいい」

 さらりと返され苦笑する。おそらく冗談で言っているのだろう。

 たしかに大知さんの担当する裁判を傍聴に行けば、陪審席に座って法服を身にまとっている彼をいくらでも見られる。でも。

「さ、さすがに身内が裁判官を務める裁判に傍聴に行くのはどうなんでしょう?」

 法に関わる職種の人や学生ならいざ知らず、裁判官の妻である私が気軽に行くわけにもいかない。

 仮に問題がないとして、逆に大知さんは私が傍聴席にいたら気にならないのかな? そういうのをいちいち気にしていたら裁判官は務まらない?

 朝食の準備が先にできたのでテーブルに運ぶ。温め直したクロワッサンと同じプレートにサラダとハムを盛りつけ、彼に渡した。

 自分のコーヒーをカップに入れて、冷蔵庫からヨーグルトを取り出し私も一度席に着く。

 大知さんと向き合って食事する、大切で大好きな時間だ。
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