お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 明日、突然仕事でこちらに来る用事ができて、よかったら久しぶりに会えないかといった趣旨の文面が姉の普段通りの口調で綴られている。

 当たり前だが大知さんから伝えられた内容と相違はない。

 家で食べるのを提案し、ついでに食べたいものがあれば教えてほしいといった旨を返信した。

 スマホをしまい、私も仕事に向かう。普段より足取りが軽いのは大知さんのおかげだ。


「おはようございます」

 月曜日は比較的登園時間が遅くなる傾向にあるのは、どこの園でも共通かもしれない。確認事項に目を通して、子どもたちを迎える準備に取りかかる。

「おはようございます」

「わっ!」

 突然、背後から両肩に手を置かれ、不意打ちに素っ頓狂な声が出た。

「か、川島先生」

「昨日は偶然でしたね」

 にこやかに挨拶され、失礼にならない程度に素早く彼から離れる。触れられて驚き、溢れ出そうな嫌悪感を顔に出さないように抑えた。

 やはり異性への苦手意識が拭えない。それをあからさまに出さないほどには大人になったけれど。結婚しているし、相手にとっては何気ないことかもしれない。

「個人的なつまらない話を長々とすみませんでした」

「い、いいえ」

 急に神妙な面持ちで告げられ、即座に否定する。

「あら? どこかでふたりで会ったのかしら?」

 そこで萩野先生が明るく話に割って入ってきた。嫌味のない笑顔にホッと胸を撫で下ろす。

 昨日、遠足の下見をかねて牧場に足を運んだ際、同じ目的だった川島先生と遭遇した話をした。
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