お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「終わったか?」

「あ、はい。すみません、読んでいらしたのにお邪魔でしたか?」

 その場であたふたしていたら大知さんがあきれたように笑った。

「千紗が邪魔なわけない」

 そう言って本を閉じ、ベッドサイドテーブルの上に置く。そんな彼の行動からある考えが思い浮かんだ。

「もしかして……待っていてくれました?」

 私の問いかけに大知さんはふっと笑った。

「待っていたよ、奥さん」

 彼の言葉に嬉しさにも似た感情で胸がいっぱいになる。大知さんと出かけたあの日から、少しずつ夫婦として彼との距離が違くなっている気がした。

 それはこうして大知さんからの歩み寄りがあるからだ。緊張しながらベッドに近づき中に入った。

 彼の温もりがシーツ越しに伝わり、そっと身を寄せると、大知さんに抱きしめられて共にベッドに身を沈める。

「手、冷えてるな」

 なにげなく手を取られ、彼が呟いた。

「ごめんなさい」

「謝る必要はない」

 反射的に謝罪を口にしたら即座に返事がある。大知さんはまるで自分の温もりを分け与えるように私の手を握って、さらに彼自身の方に引き寄せた。

 つられるように自分から大知さんに抱きつく形で彼に密着する。

 なにか言うべきなのかと迷っていると不意に彼と目が合い、どちらからともなく唇を重ねた。

 長くて甘い口づけに心が満たされていく。唇が離れたら、どこか寂しく感じるなんて我ながら現金だ。
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