お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 物足りないのは、私だけなのかな? 大知さんにとってこの触れ合いはどういう位置づけなんだろう。

 私に気を使ってとか、義務ではないと思いたい。

 訴えかけるような目で見つめていると、大知さんはなだめるように額に口づけを落とした。

「なかなか温まらないな」

 どうやら私の手の冷たさを気にしているらしい。大丈夫だと手を引こうとしたが、彼は私の手を今度は自身の首元に当てた。

「あ、あの」

 手から伝わるのとはまた別に、肌越しに直接温もりが与えられ、軽くパニックを起こしそうになる。

 体温だけではなく、彼の薄い皮膚の感触や脈打つ鼓動、すべてが手のひらから伝わってくる。

「大知さんは冷たくないですか?」

 動揺してこちらから質問する。私の手は彼からの温もりのおかげで、指先まですっかり体温を取り戻し、むしろ熱いくらいだ。

「いや? 千紗に触れられるのは悪くない」

 そう言って大知さんは、今度は逆に私の首筋に指を這わせた。

「あっ」

「もちろん、千紗に触れるのも好きだよ」

 耳元で甘く囁かれ、パジャマの裾から彼の手が滑り込まされる。

「んっ」

「こっちは温かいな」

 脇腹をゆるゆると撫でられ、へそ回り、背中とまんべんなく触れられる。けれど彼の手はそこから上には決していかない。

 次第に焦らされているようなもどかしさを覚える。

「あ、の」

「どうした?」

 切なげに訴えかけたが、大知さんはなに食わぬ顔で返してくる。
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