お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「その……」

 そうなるとますます言い出しづらい。

 その間も彼の手は触れ方を変えながら私の肌を懐柔していく。でも触れてほしいと訴えたい箇所にはけっして手を伸ばさない。

「もっと、触ってほしいです」

 羞恥心と格闘しながら必死の思いで伝える。しかし大知さんは余裕のある笑みを崩さない。

「触ってるよ」

「そうじゃ……なくて」

 触れてもらえない焦燥感と伝わらないもどかしさで泣きそうだ。

「千紗はどうしてほしい?」

 大知さんが助け船を出すように再度、聞いてくる。おかげで私はついに観念した。

「ん……あの、もっと上も……胸も……触ってほしい、です」

 最後は消え入りそうな声で、泣きそうになりながら白状する。恥ずかしさで息が詰まりそうだ。

 どう思われたのか。怖くて彼の顔がまともに見られずにいると、大知さんから唇を重ねられた。

「千紗の仰せのままに」

 そう言って胸に触れられる。欲しかった刺激は思った以上に心地よくて、思考力を奪っていく。

「んっ……ん」

 漏れそうになる声を懸命に抑えて、大知さんから与えられる快楽に身を委ねる。

 彼から口づけられ、応えようとするがキスに集中できず上手くいかない。不器用な自分が相変わらずで、涙があふれそうになる。

「可愛いな、千紗は」

 ところが私とは対照的に大知さんが嬉しそうに呟いた。

「そうやって俺を欲しがってほしいんだ」

 頭が回らず、彼の言わんとするところがきちんと理解できない。
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