お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 姉の勢いに圧され、挨拶もそこそこに、延長保育予定の園児が体調を崩して付き添った話をする。本当はもっと前にここにいたのに、なんだか申し訳ない。

「大知さんもすみません、お待たせしました」

 姉から大知さんに視線を移すと、彼は私の頭にそっと触れた。
「お疲れ、大変だったな」

 ねぎらわれて逆に罪悪感を覚える。急いで気を取り直し、夕飯の準備を急ごうと誓った。

「おじゃましまーす。引っ越しのとき以来ね」
 きょろきょろと部屋の中を見渡す姉をよそに、手を洗ってさっさと台所に立つ。大知さんは着替えに自室に向かった。

「どう? 新婚生活楽しんでる? 大知くん、忙しいんじゃない?」

「うん。いつも大変そうだよ」

 明るく問いかけられ、手を動かしながら答える。

「そっか。仕事柄しょうがないとしても寂しくない? ちゃんと愛してもらってる?」

 姉の言い方に少しだけ戸惑う。なんて返したらいいものか。それを察したのか姉は軽く肩をすくめて続ける。

「私の代わりにお見合いして結婚を決めたわけだし。大知くんからしたら、お父さんから勧められて、忙しくて支えてくれる相手が欲しくて結婚したわけだから」

 そこに愛はあるのか。姉の言うように一見すると彼は条件で私を選んで結婚した。

「大丈夫。大知さん、優しいよ」

 力強く言いきる。愛されていると断言できなくても、大事にはされている。これだけは間違いない。
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