お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「そっか。ならいいんだけれど」

 それ以上は返さず、作業に意識を集中させる。嘘は言っていないはずなのに、どういうわけか言い知れない不安が胸を覆っていく。

「千紗」

 着替え終わった大知さんがリビングに現れ、真っすぐに私のもとにやって来た。

「なにか手伝おうか?」

「大丈夫です! もうほとんど準備は終わっているので。大知さんはお姉ちゃんと座っていてください」

 先にテーブルについている姉の方向に促す。そこで姉からもらったお土産を思い出す。

「お姉ちゃん、持ってきてもらったワインはご飯と一緒でいい?」

「あ、じゃあ先にいただこうかな。大知くん、久々に一緒に飲もうよ」

 大知さんは少しためらったが、私がグラスを差し出すととりあえず受け取り、テーブルの方に向かう。

 姉からは有名パティスリーの焼き菓子の詰め合わせとワインをお土産にもらった。同じフランスのもので合わせているところにセンスを感じる。

「千紗は? 相変わらず飲めないの?」

 姉に尋ねられ、眉尻を下げた。

「うん」

 実家でも大知さんは姉や両親とともにお酒を楽しむ機会がたびたびあった。

 けれど家族の中でどういうわけか私だけがお酒に弱く、すぐに酔いが回ってフラフラになる体質だった。

 あまり心地いい酔い方は経験した覚えはなく、アルコールは自粛している。

「ちょっとくらい飲まない? 飲んだら強くなるかもよ」

 残念だという顔をして、姉は私を見た後同意を求めるように大知さんに視線を移す。
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