お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「無理して飲む必要はない」

 ところが大知さんはきっぱりと言いきったので姉は唇を尖らせた。

「少しくらいいいと思うんだけれど、厳しいわね。大知くん、千紗の保護者みたい」

 ふたりのやり取りに、なぜか胸が痛む。たしかに姉にとって私たちの印象は、夫婦というよりそちらに近いのかもしれない。

 でも大知さんは私をかばってくれただけで、姉はそのままの感想を口にしただけだ。

 それに万が一アルコールを口にして半端な酔い方をしたら大知さんに迷惑をかけるかもしれない。醜態を彼にさらす真似だけは嫌だ。

 ひとまず話題を変えようと明るく提案する。

「ちょうどチーズあるから出すね」

 冷蔵庫のドアを開け、軽く盛りつけてテーブルに持っていった。

「ありがとう! じゃあ、先にいただくね」

 姉が笑うとぱっと花が咲いたように周りの空気が明るくなる。綺麗な笑顔は身内でも思わず見惚れるほどだ。

 そのとき不意に大知さんと目が合い、反射的に思いっきり逸らした。

「ご飯ももうすぐできますから」

 ごまかすようにキッチンに引っ込み、盛りつけにかかる。飲み始めるふたりをこっそり見て、居たたまれない気持ちになった。

 普段、大知さんは家で晩酌をしない。彼が両親や姉とアルコールを嗜む場面を何度か見ていたので、結婚した当初にお酒は飲まないのかと尋ねた。

『付き合いで飲んだりはするけれど、ひとりで飲むほどじゃないんだ』

 そう言って私の作った料理に口をつける大知さんにあのときは納得した。
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