お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 楽しい時間はあっという間で、そろそろ帰るという姉のため、タクシーを呼ぶ。

「大知くん、今日はありがとう。千紗をよろしくね」

 大知さんは電話する案件があるらしく、先に姉に別れを告げてから自室に向かった。

 到着するのに少し時間がかかると電話口で言われたので、下にタクシーが来たらわかるように窓際に立つ。

「千紗もすっかり人妻なのね。奥さん業、様になっているわ。ふたりのときはもっとイチャイチャしたりしてるの?」

「なっ、お姉ちゃん、酔ってる?」

 姉はテーブルについたままこちらに視線を送ってくる。いつもにも増して饒舌で、口調が軽くあけすけな言い方に戸惑う。

「少し意外だったわ。大知くん、思った以上にちゃんと千紗を奥さんとして大事に扱ってるのね」

 訝しむ私に、姉は目を細めた。タクシーに乗せる前に水を飲ませた方がいいかもしれない。

「で、どうなの? 姉としては少し心配してるのよね。大知くんは性格からして結婚相手には誠意を尽くすだろうけれど、それは愛情なのか誠実さなのかわからないときがあるだろうし」

 答えない私に迫るように姉はたたみかける。まるで私たちの中にあるぎこちなさを見透かしたかのような言い方だった。

「……大知さん優しいよ」

 やっと返せたのはそれだけだった。あまり姉の方を見ないように、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。

「そうね。千紗は裁判官の妻として条件がぴったりだもの」

 きっぱりと断言され、目を瞬かせる。条件とは、前に話した素性や経歴の話だろうか。
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